あるまじろさん小説『イーグルさん家【ち】の日常』


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『イーグルさん家【ち】の日常』

 〜作:あるまじろさん〜





ナツミは、今年で6歳になるイーグルさん家【ち】の一人娘だ。

 将来の夢は「議長」、人望は厚く下級生の面倒見もよく、学校の成績はもちろんトップ。鍛錬だって欠かさない。砂浜を走ったり湖で泳いだり、ときにはちょっと大人っぽく神殿で祈ったりなんてしてみたりして。お弁当も毎日ちゃんと自分で作ってもってくる。

 でも、遊ぶことだって忘れはしない。

 親友のユズコや、仲良しの友だち、時にはケンカしたりもする男子たちと、今日も新しい抜け道を探したり生き物を捕まえたり、共和国の七不思議を追って大冒険に繰り出したりする。


 そんなナツミは、パパとママのことがもちろん大好きだ。

 パパはちょっと気が弱くて、ちっとも訓練しないから、いまだにショルグはランク外のまま。でも毎日仕事に励んでいて、ちょっと前にリムウルグ長になった。料理が上手で、お茶が好きで、いろんなことを知っている。パパの作るフルーツティーは、どんな人にも負けないおいしさだとナツミは思う。

 ママはおおざっぱでお肉とお酒が大好きで、料理といえば焼くかお酒を使うことしか知らないから、いつも「なんで王魚で蒸し魚なんて作っちゃうんだよっ」ってパパとケンカになる。ママはパパと違ってとっても強いから(パパがウルグ長になる前はずっとショルグ長をやっていたのだ)すぐにパパは負ける。その間に入って、ふたりを落ち着かせるのも娘としてのつとめである。

「二人とも、ちょっとそこに座ってください」

 ついでにお説教だってする。二人ともケンカするのはいいけど(よくないんだけど)、毎回家の中を散らかすのはやめてほしい――そう思ったりするわけで。

 だけど、パパとママは仲が悪いわけじゃない。ケンカしたって、また次の休日には朝から温泉にデートに行くにきまっているのだ。

 だからこれは、きっと「ケンカするほど仲がいい」ってことなんだと思う。

 飼いイムのダイサク(命名ナツミ)も、大切な家族の一人だ。「はニゃがへッちゃ」と「あそぴゅい」しか言わないけど。イムには仕事もテストも試合もないんだろうなぁ。いいなぁ……。



そんなある夏の日――愛の日の前日のことだ。

 みんなで「キモダメシ」をしようってことになった。場所はナーガの館。ワクトの神様にめされた人が、大地にかえるまでのあいだ、疲れをいやす場所だ、って先生が言っていたところ。

 あそこは神様の場所だからむやみに入ったりしてはいけないよ、って大人は言うけれど、ダメって言われたらやりたくなるのが子供というものだ。もしかしたら先生たちはなにかとっっっっっても楽しいものを隠しているのかもしれない。そして、ひとり占めしようとしているのかもしれない。それはずるい。

 だからナツミはべつにまったくぜんぜん行きたいわけじゃなかったけど、泣き虫の女の子が一緒にきてほしいって言うから、「わたしはべつにまったくぜんぜん行きたいわけじゃないけど、ど〜〜〜〜〜〜してもって言うならしょうがないよね」というわけで、行くことにした。しぶしぶなのだ。仕方ないのだ。なにかスゴイ秘密が隠されているかもしれないのだ。

 夜のナーガの館は薄暗くてひんやりとしていて、ロウソクの明かりが不気味なカンジにゆらゆら揺れていて――おっかないけど、でもそれだけだった。宝物もお化けもなかった。ナツミはちょっとがっかりした。男の子が「へっ、やっぱりなんでもないじゃん」って言ったけど、そういうセリフは友達の服のソデを掴んでいるその手をはなしてから言うべきだと思う。

 そのとき。

 置かれていた箱(?)のフタが、ガタッて動いた。気のせいだよってみんなは口々に言い合ったけど、どんどん動きと音はおおきくなって、泣き虫の子は半分ベソをかきはじめて、ついにはフタが開いて――


 中からふたつの光る目玉が襲いかかってきた。


 ワクトの神様がおこったんだ! って走って逃げちゃった子、泣き出して動けなくなる子、いろいろいた。

 でもよく目をこらしてみると、箱から飛び出てきたのは、いつもここに住んでいる野良イムのクモスケ(同じく命名ナツミ)だった。なんであんなところに入ってたんだろう。灰まみれで真っ黒になっていたせいで、目玉だけが光って見えたんだね。

 けっきょく泣いてしまった男の子や、おなじように泣きじゃくる小さな女の子たちをなだめて、みんなのお父さんお母さんに迎えにきてもらって、「キモダメシ」は終わった。

 その頃にはもう夜も遅くなって、空をたくさんのワフ虫たちが飛び交いはじめていた。



 ナツミは、まっすぐ家に帰らずにタラの港まで歩いた。

 そのままバイバイして帰ることもできたのに、なぜかユズコはついてきてくれた。

 ひっそりと静まり返る個人商店を通り過ぎて、ザカーの塔にのぼる。展望台の窓枠に腰かけて見渡す海はエナの光にきらきらと瞬いて、その波間を滑るように漂うワフ虫たちの群れは、海原という名の夜空に散らばる星屑のようでもあった。

 もしかしたら、この中にいないかな――とナツミは思う。

 海をわたって故郷の大地にかえっていた「お父さん」と「お母さん」が。

 ロン爺――いつもリムウルグで釣りをしているおじいちゃんのことなんだけど、みんなはそう呼んでる――がいつか教えてくれたこと。どこかの国では、死んだ人のたましいが、夜になると光の玉になってゆらゆらと飛んでいることがあるって。

 本当は、お化けにだって会ってみたかったのだ。


「どうして、パパはお父さんじゃないのかな。なんで、ママはお母さんじゃないのかな……」


 お父さんとお母さんはオルルド王国から移住してきた。

 そのときナツミはまだ1歳にもなっていなくて、その頃のことはほとんど覚えていない。

 お父さんとお母さんは、移住者がときどきかかる病気のせいで、移住してきたその年にワクトの神にめされてしまったのだという。孤児になったナツミは、子供のいなかった当時のジマショルグ長――イーグル夫妻の元に引き取られた。

 パパとママのことは好きだ。あたりまえに好きだ。あたりまえすぎて言う必要もないくらい好きだ。

 それでも、今日みたいな日に――みんなにはお父さんやお母さんが迎えにきてくれて、ワフ虫のふしぎな光につつまれていると、自分のお父さんやお母さんのことだって思い出してしまう。

 いくら底なしの元気を振りまいているように見えたって、近所のおばさんたちにしっかり者だと言われていたって、ナツミはまだ5歳の女の子なのだ。

 こんなふうにしぼんでしまう日だって、あるのだ。


 ぽつぽつとこぼすナツミの呟きに、ユズコは隣に座ってただ頷いていてくれた。

 ユズコにも、両親がいない。

 お姉さんが成人していたおかげで孤児にはならずにすんだけど、姉妹ふたりだけの生活はやっぱり大変みたいだ。なのに、ユズコはいつものんびり、のほほんとしていて、どちらかというと共通点のすくない二人の気が合うのは、そういう環境で育った者同士、わかりあえるものがあるからかもしれない。

 やがて言葉もなくなり、そろそろ帰ろうかと立ち上がったとき、どこかで名前を呼ぶ声がした。あまりにも帰りの遅い妹の心配をしたユズコの姉と、ナツミのパパとママが探しにきたのだった。



そしてまたいつもの日々が戻ってきた。

 パパがお茶用にとっておいたジャムやラフィアの花を、ママがまたお酒に使ってしまって、口ゲンカのあげくパパはママにやりこめられていた。

 そしてそれを仲裁するのは、やっぱり一人娘のナツミの役目だ。


 これまでと変わらないイーグルさん家の日常。

 しかし、来年からはちょっと違うのだ。

 年が明けたらナツミは成人する。ウルグにもショルグにも参加できるようになる。

 仕事をバリバリこなして、もっともっと強くなって、ゆくゆくは議長になるのだ。そして議長になったら、やりたいことがあるのだ。


 ひとつ、自分の生まれたオルルドのことを、もっと知りたい。そのためには、議長になっていろんなことを知るのがいちばんいい。お父さんとお母さんのことも、わかるかもしれない。

 ふたつ、イムの木をオルルドから取り寄せてもらう。いまのプルト共和国では、イムティはやすらぎ堂の人が持ってくるものしかない。お茶好きのパパは、葉っぱから直接作ってみたいっていつも言っているから。

 みっつ。これもオルルドから、カイミーっていうお肉を売ってもらうこと。おいしくて、スタミナのもとになるんだってロン爺が言ってた。きっとママは好きになるんじゃないかな。

 そして、よっつ。

 この国を、もっとずっといい国にすること。みんなが笑顔で幸せに暮らせる国を作っていくこと。

 パパとママがいて、それから――

 来年の春には、ナツミの妹か弟が生まれてくるのだ。お姉さんになるのだ。

 だから、その子のためにも――もっとずっと、いい国にしていきたいと、未来のナツミお姉さんは思っている。


「昨日ぼくが買ってきたお茶、誰か知らない?」

「わたしは使ってないよ」

「あー。あたしが全部イムティ割りにしちゃったの。ごめんね」

「……なんてことしてくれるんだ! だいたい君はいつもいつもそうやって、ぼくの物を勝手に」

「なによだから謝ってるでしょ」

「ぁむぽぐらろにぃ」

「ね、ダイサクだってこう言ってることだし」

「そういう問題じゃない! そもそも、」

「はいはい二人とも落ち着いて。パパ、お茶なら帰りに買ってきてあげるからコーフンしないの。ママは赤ちゃんがいるんだから、お酒はひかえてください。それとですね、なんども言うようですがケンカは」

「ナッちゃん、いこー」

 玄関からユズコが顔を出してきた。

「あ、ユッコちょっと待って」

 ナツミはパパからきっちりイムティぶんのお駄賃をせしめ、作りたてのお弁当を持って家を出る。

「お待たせ! ――それじゃ、学校いってきまーす!」

『いってらっしゃーい!』


 こうしてまた今日も、イーグルさん家の一日が始まる。







☆あとがき☆



なんか随所にちらほらと本文調が見えますが、仕様ということで(笑)。

とりあえずダイジェスト版でお送りしました。本文にするとすっげぇ長くなっちゃうんですけどね!

子供たちの大冒険とか、パパの料理やお茶へのこだわりとか、いろいろとネタはありました。ブイヨンやジャム、パンを手作りするところなんかも、親子の会話を交えて書くと面白かったです。


ゲーム中だと同じですが、市販モノと手作りの違いって、やっぱりあると思ったので。そのへんもちょろっと。

子供の視点で書いてみて思ったことは――

小さな子たちって、大人とまったく着眼点が違いますから、見ているものがすべて新鮮なんですね。

抜け道見つけるの得意ですし、そういうののついでに植え込み――花や植物とか柵とか――や家屋の違いとか実感できますし、七不思議といえば大通り南のイム像やショルグ前の噴水のオブジェ、温泉前の足跡に神殿のクリスタル。

校舎の黒板にはぜったいに子供たちのラクガキがあるはずで、ふだん訪れることのあまりないハーム美術館は『夜中にひとりでに鳴る音の箱』を七不思議にしてみたり、ゲーム中だとなかなか注意の向けられない場所に、本文ではいろいろとスポットを当ててみました。ナーガの館、ザカーの塔もそうですね。

料理も、たんに作るだけじゃなく、ちょっとした工夫とかいれて、ゲームでは再現できない部分を出してみました。お菓子にお酒、パンに炒め物にスープにオムレツお茶にサラダ、かくし味にブイヨンやフルーツフィル。匂いとか質感とか彩りとか、画面ではわからない「おいしそう」を描いてみたかったので。

や、たんに私の食い意地が張ってるだけですが。料理は好きです。

そうそう、アイテムもありましたね。

イムのフンなんかは男の子たちが振り回して喜んでるにきまってますし(笑)、心のくま、レストの調べとかはとても思い出に絡めやすいアイテムでした。ぬいぐるみなんて、いかにも子供が好きそうな……。

あとクモスケやダイサクってのは、ナツミが勝手につけている名前ですが、子供って周囲のものに自分で名前をつけるのが好きですよね。

ナツミは野良イムだけでなく評議会館の飼いイムなんかにも全部名前をつけていて、国内にあちこちいるイムたちの個体差みたいなのも考えてあります。ネーミングセンスはちょっとアレになってますが(笑)、子供は動物と遊ぶの好きですから、思い入れもいっぱいあるのでしょう。

ちょっと困ったのは、虫とかの資料があまりなかったので、ミミズとかカエルとか入れてもいいのかなぁ……と、そのへんはすこし悩みました。

パパとママについては、あらすじだとほとんど出てませんが。

まあ二人はアツアツですね。(死語ですか?)

そして娘には頭が上がりません。家族模様とか、そっちのほうが本題になるんですが、あらすじだと表立ってきませんでした。うおお、実力不足が露呈される……(汗)。エピソードそのものは本文にいくらでもあるんですががががが。お使いとか病気のときに温泉連れて行ってもらうとか、そういう細かいネタも本文には仕込んでみました。

ダイサクはママがイム争奪戦で優勝して以来の飼いイムですが、すでにナツミの友人というか家族の一員になっていますから、「あの大会だけはどうしても負けられないのよねぇ」だそうです。

あ、ユズコのお姉さんのこともいろいろ考えてあります。姉妹模様とか、もっと書きたかった。


まあ作品を2つほど書いてみて、「やっぱりよく作りこんであるなあ……」と思いましたね。

ネタを煮詰めているときなんかは資料本に首っ引きでしたし。

その他には、前作では魔術防御、今回は移住バグをネタに使わせてもらいました。未成年しかデートに誘いにいかないロリ○ンの人なんてのを書いてみても面白かったかもしれませんね(笑)。

やー、楽しかったです。執筆の感想としては、

「やっぱりワーネバはいいゲームだ!」

に尽きますね。



 2008.10 あるまじろさんより






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